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宮地研究室
(応用生理学)

#スポーツ科学の進歩と発展に貢献する

運動生理学やトレーニング科学を基礎として、身体活動・栄養・睡眠といった生活習慣の変化が、健康に及ぼす影響や身体適応のメカニズムの解明を目指しています。

研究内容

所祭委員:ゼミ全体としてどのような研究を行なっているのですか。

宮地先生: 好ましい生活習慣、適切な身体活動や食事、睡眠に健康増進効果があることをご存知だと思います。宮地ゼミの大きな研究テーマは、好ましい生活習慣による健康増進効果のメカニズムを探ることです。 ゼミの研究は大きく4つに分かれています。

①身体活動や栄養のガイドライン策定のための研究

宮地先生: 私は今年の4月に早稲田に赴任しました。それまでの18年間は厚生労働省所管下にある国立健康・栄養研究所に勤めていました。そこでは、身体活動や栄養・食事のガイドラインを策定するために、疫学や公衆衛生学などの手法を使って研究を行なっていました。

身体運動や食事のガイドライン

②動脈硬化などの生活習慣病予防効果の機序の解明

宮地先生: また、生活習慣病の中でも、特に身体活動や食事が関連する心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患に関する研究を行っています。

エコー測定中の画像

適切な身体活動や適切な食事による動脈硬化性疾患の予防効果とその機序(メカニズム)を解明します。

これは首の動脈の超音波画像です。運動によって血管の硬さや血流量がどのように変わるのかを調べ、動脈硬化の予防法を考えています。

③体力や身体活動量の新しい評価方法の開発

宮地先生: スポーツ科学をやっている人はアスリートの研究にも興味ある方が多いですよね。オリンピックなどの大きな大会に出場する選手は皆、超人的な体力を持ち、膨大な量のトレーニングをこなしています。体力や身体活動量の測定に関連して、ウェアラブルデバイスの開発も行っています。ウェアラブルデバイスで体力や身体活動量をどれほど正確に測れるかを評価し、開発の支援をします。

身体活動量を測るウェアラブルデバイス

メタボリックチャンバーという6畳程の部屋に入り生活するだけでエネルギー消費量が測れる大きな装置や、二重標識水法という分子量の違う水素と酸素の安定同位体を使用しエネルギー消費量や身体活動量を測定する方法を用いて、最新のウエアラブル機器の精度向上や開発に関わる研究を行なっています。

④腸内細菌叢の活用に関する研究

宮地先生: 最近「腸内フローラ」や「腸内細菌」といった言葉を耳にすると思います。私たちは食べたり運動したり、人と接触したりすると必ずウイルスや菌などに晒されて、何らかの影響を受けます。

細菌群は食事などにより身体に入り、食事や運動によって増えたり、減ったりします。健康と生活習慣を結ぶ一つの重要な媒介要因として、腸内細菌や口腔細菌と健康との関係を研究も行っています。

このように様々な手法を用いて、身体活動や栄養、あるいは睡眠による健康増進のメカニズムを解明する研究をしています。
宮地ゼミは、スポーツ科学の中でも自然科学系のヒト対象で比較的巨視的な研究を行っています。 これらの研究をするためには基礎知識が必要です。私が学部で担当している「生理・運動生理学」や「運動適応学」などを学んでいただくと、楽しく研究に入れると思います。

 

所祭委員: 公衆衛生や動脈硬化、腸内フローラなど研究の幅が広いように感じました。 実験系の研究が多いのでしょうか。

宮地先生: 実験も調査も両方やります。 もちろん人を対象に測定したり、必要があれば医師の先生と協力し、血液を採ったりもします。しかし、質問表やウェアラブルデバイスを使用した疫学的な調査も実験研究と同じくらい多いです。

所祭委員: ウェアラブルデバイスを使用した実験や喉のエコーなどを撮る実験は大学内で行っているのですか。

宮地先生: そうです。昔に比べて今は道具が安い、かつ小さくなったのでゼミ生でも気軽に使用できます。しかし、メタボリックチャンバーは大学にはなく、私が今も部長を兼任している国立健康・栄養研究所のものを使用しています。

所祭委員: 先生は今年から赴任されてきたということで、学生さんはまだいらっしゃらないのでしょうか。

宮地先生: 学部生はいないのですが、博士課程の大学院生がいます。他の大学から、僕の研究室で学ぶことを希望する方に博士課程から入っていただきました。大学院生とはすでに研究活動を開始しています。

所祭委員: 大学院生の研究内容を教えていただけますか。

宮地先生: 遺伝と生活習慣が体力に及ぼす影響の研究を行っています。
マラソンなどの持久力が関わるスポーツの成績は、最大酸素摂取量で左右されます。最大酸素摂取量とは、身体の中にどれだけ多くの酸素を取り込み、どれだけ多くの脂肪や糖を燃焼させて大きなエネルギーを作れるかという生理的指標です。
つまり、身体の中にたくさん酸素を取り入れれば取り入れるほど大きなパワーを発揮できる。最大酸素摂取量が大きい人ほどマラソンなどの長距離走が早いと言われています。たくさんトレーニングしている人は心臓が大きくなり、多くの血液を身体中に送り出せるようになるので走る速度も早くなります。
他にも、血液に含まれている酸素や糖、脂肪などを筋肉が取り込むことで、運動するために必要なエネルギーを作ります。それらの機能は、トレーニングしたらどんどん強くなる人と、いくらトレーニングをしても強くならない人がいます。同じトレーニングをしても個人差がすごく大きいのです。その個人差を決めるものはなんだと思いますか。

所祭委員: 遺伝でしょうか。

宮地先生: そう。やはり遺伝の要素の割合が大きい。少し残酷な話ですが才能のある人とない人がいます。また、マラソンなどの持久力が必要な運動に向いている人もいれば、短距離などの瞬発力が重要な運動に向いている人もいます。遺伝子を使ってその人の競技特性を明らかにし、その人に合った個別のトレーニングを考える研究をしています。

所祭委員: 大規模ですね。

宮地先生: そうですね。千人を超える協力者の遺伝子や体力、生活習慣も調べ、体力の高い人と低い人の遺伝子の特徴を見つけていきます。ただ、早稲田大学にはWASEDA’S Health Studyという研究プロジェクトがあります。この研究プロジェクトには早稲田大学の卒業生や教職員といった校友の皆様が参加していて、校友の皆様の健康状態などを追跡調査しています。僕の研究室に所属している院生の研究は、WASEDA’S Health Studyのデータを使用させて頂きます。

研究の面白さ

所祭委員: 研究をしていて、やりがいを感じたことや印象に残っていることを教えてください。

宮地先生: 正しい仮説を立てたときは実験で1人目のデータをとったらすぐに仮説が正しいと分かります。その瞬間がものすごく嬉しい。あるいは仮説通りにならずに新しいことがわかる時もとてもワクワクします。
僕が今までの研究で一番嬉しかったことをお話ししますね。運動トレーニングをするとスポーツ心臓といって心臓が大きくなります。そうすると、筋肉も大きくなり毛細血管も増えます。毛細血管が増えたら、足やお腹などの真ん中を通っている血管はどうなると思いますか。

所祭委員: 太くなりそうですね。

宮地先生: 太くなると思うよね。ところがそれを実験で証明した人は今まで誰もいなかった。
心臓が大きくなり毛細血管も増えるのだから、真ん中にある血管は太くなると仮説を立てて実験を始めました。一般人にトレーニングをしてもらい、1週間に一回、超音波装置で血管の太さを調べていったのです。そうすると、だんだん太くなっていっていくことがわかりました。この実験では自転車を漕ぐトレーニングをしてもらいましたが、腕や首の血管の太さは変わらず足の血管だけ太くなった。つまり、運動した足にたくさん血液が流れるので足の血管だけ太くなったというわけです。
論文を発表して評価されるのももちろん嬉しいけど、実験をして「変わってる!」って発見した瞬間が本当に嬉しい。「これ、自分しか知らないんだ!」って(笑)

一方で、仮説と全く逆のことが起こったりもします。研究が仮説通りにいかなくても楽しいです。
運動すると健康になると思っている人が多いですよね。アメリカに留学したとき、アメリカ人は熱心に筋トレをしている人が多く、血管も太くて健康的な人が多いだろうと思っていました。そこで筋トレをしている人の動脈を見てみると、とても硬いことがわかった。おじいちゃんやおばあちゃんのようなしなやかでない血管になっていたのです。
これを発見した時も「こんなこと僕しか知らない!」と思いました。それを留学先の研究室で発表したらざわついて(笑)「そんなことを発表して大丈夫なのか」「間違っているんじゃないか」「俺は一緒に実験した、本当にそうなんだよ」など。とても盛り上がりました(笑)
その論文が学術誌に掲載されたら、アメリカのスポーツ医学会の先生たちからたくさん質問が来ました。そしてどんどん追試も行われました。 最終的に、システマチックレビューやメタ解析の手法で、世界中で行われた関連研究をひとまとめに統計解析がされた結果、「筋トレをしたら血管が硬くなる」という結論になりました。

所祭委員:筋トレをしてはいけないということになりますよね。

宮地先生: それがそうではないのです。
僕が日本に帰ってから日本の学生と一緒に筋力トレーニングをやると、やはりだんだんと血管が硬くなることがわかりました。しかし、筋トレを辞めて2ヶ月後にもう一度測定すると元に戻ったのです。
つまり、筋トレによって血管が硬くなるのは、動脈硬化性疾患で見られる不可逆的な変化ではなく可逆的なものです。他にも、血管は硬くなっていても、それ以外の血管を広げたり縮めたりするなどの機能は維持されていることがわかりました。そのため筋トレが健康に大きな害はないとも考えられます。さらに、発展的な研究として、筋トレとジョギングなどの持久的トレーニングを一緒に行うと血管が硬くならないことが明らかになりました。
様々な研究の結果、筋トレをしてはいけない、筋トレは健康に悪いということにはなりませんでした。

所祭委員:筋トレをしたら動脈が硬くなると分かったときは、新しい発見に驚くと同時に少しヒヤッともしたのではないでしょうか。

宮地先生: スポ科の学生や先生ならばスポーツをすることが良いと結論づける研究を行いたいと思うかもしれません。しかし、スポーツが利益にならないとする研究結果もとても大切です。例えば、抗酸化作用があるからビタミンCを多く摂取した方がいいと主張する人がいますが、摂りすぎることで起こり得る問題についても十分に注意する必要があります。どんなことにも良い面と悪い面がある。批判的に考える、見ることが大切です。

所祭委員:宮地ゼミでの研究を伺っていると、私は人科の学生でスポ科とあまり接点がないのですが、人科で行われている研究と共通しているものがありますね。

宮地先生: その通りです。学生の交流が少ないのはなんだかもったいないよね(笑)
僕が研究しているマイクロバイオームなどに関心がある人科の学生がいると思います。スポ科の研究はアスリートのみを扱うわけではなく、いわゆる自然科学をスポーツに応用する場合が多いです。なので、人科とスポ科もやっていることに大きな違いはない。
実は、国立健康・栄養研究所は西早稲田キャンパスととても近いので、理工学術院の先生とは18年程前から一緒に研究をしています。 マイクロバイオームの研究でも、世界中の海のバイオームを測定した研究を行う先生や、お腹の中には100兆を超える菌が住むと言われていますが、一個一個寄り分けて研究をする先生もいます。そういう人たちとの共同研究はとても面白い。人科とも合同研究をしてみたいです。

ゼミの雰囲気

所祭委員: ゼミの雰囲気についてお聞きしたいです。

宮地先生: 私自身、学問は自由にやりたいと思っています。
国立健康・栄養研究所に勤める前は大学教員でした。学生と一緒に論文を書いたり、学会発表することがとても楽しかったです。その成果が認められて国立健康・栄養研究所で研究する機会を頂きました。研究所はプロの集まりなので質の高い論文がたくさん出ますが、オリジナリティの高い、常識を覆すような研究はほとんど出ないです。「そりゃそうだよね」っていうお利口さんな研究ばかり。
私自身たくさん論文が書けたし、それなりに納得いく研究ができましたが、胸がときめく研究がしたい、若い人のやりたいことを支援したいという思いもあり、大学教員に戻りました。「そんなのダメだよ」「そんなの馬鹿げているよ」などと否定はせず、誰も思い付かない発想で、自分の不思議だと思うことを楽しく明らかにしていける雰囲気作りをしていきたいです。

ゼミの活動

所祭委員: コロナの影響がある中で、どのようにゼミ活動を行っているのですか。

宮地先生: 現在私の研究室には博士の大学院生が一人所属しているだけですが、お二人の講師、お一人の助教の先生も勉強会に参加しています。まだ人数が少ないですが、1ヶ月に一回は全員で集まっています。大学院生さんとは、週に数回程度zoomや対面で議論や発表を行っています。

所祭委員: 議論というのは、大学院生の研究に対しての議論がメインなのでしょうか。

宮地先生: 僕が発表してみんなから意見をもらう場合もあるし、講師の先生が発表することもある。みんな輪番です。

所祭委員: 先生も研究を発表しているのですね。

宮地先生: もちろん。教授が積極的に研究しないとダメだと思います(笑)教える・教えられるという関係はありますが、みんな等しい研究者です。みんなでワイワイ「これいいね」とか「ここはこうしたほうがいい」などと話しています。

所祭委員: 先生も意見を言われたりするのですか。

宮地先生: 僕もバンバン言われますよ(笑)「先生、それはないですよ!」とかね(笑)
僕自身があまり上下関係を重んじないタイプで、若い頃から目上の人に対しても積極的に意見や質問を言っていました。年上だからと遠慮して意見を言わないことがないようにと研究室の皆さんには言っています。

所祭委員: とてもアットホームですね。

学部生に向けて

所祭委員: スポ科は2年生の秋頃からゼミに所属するのですよね。どのような学生にゼミに入って欲しいですか。

宮地先生: 僕は今年から赴任してきたので、学生の皆さんにあまりゼミが知られていないのではないかと思います。 今年度に学部生が入ってくるか定かでないけれど、宮地ゼミで研究したいと思ってくれる学生に入ってほしいです。
研究をバリバリやれるからとか、この分野の研究が楽しいからといった理由でももちろん嬉しい。そんな気持ちを持ってくれていれば、勉強があまり得意じゃなくても、成績が良くなくても大丈夫です。あとは、きちんと挨拶ができて学校に来てくれる学生かな(笑)。 ネットで「宮地元彦」と検索すると、私に関する動画や記事などが見られます。例えば、ニンテンドーのeフィットの開発に携わった際の社長との 対談記事 とか。 興味のある学生は是非参考にしてください。
また、1年生の皆さんはゼミ選択まで時間があります。もし興味があれば、僕の授業である「生理・運動生理学」や「運動適応学」を受けてみてください。

所祭委員: 先生は研究されている幅が広いので、学生も自由にやりたい研究ができそうですね。

宮地先生: 僕の専門はマイクロバイオームや生理学、健康科学などですので、学生にもそれらに関わる研究をしてもらう方が指導しやすい。でも、僕の研究から離れたものに興味を持つ学生もいると思います。その時に「こういう技術使うといいよ」「この手法で研究するといいよ」などのアドバイスをして学生のやりたい研究を支援していきたいです。

所祭委員: ゼミに入った学生には大学院に進学して欲しいですか。

宮地先生: 大学院に進学しなくても全く問題ないです。 就職するため、あるいは見識を深めるために卒論を書くのでも構わない。卒論は大学院に進学するために書くものではないと思っています。 卒論を通して、読みやすい文章の書き方や科学的な情報に基づく意思決定ができるようになって欲しい。他にも、卒論を書く上では研究の過程や結果などをきちんとプレゼンできるスキルが必要です。これらは進学でも就職でも重要なスキルです。それらのスキルを身につけてもらえれば大丈夫です。

所祭委員: 宮地ゼミに入りたいと思っている学生は、先生の授業を受ける他に事前にやっておいた方がいいことはありますか。

宮地先生: 一度研究室に来て欲しいですね。ゼミに入る前にお話しできるととても嬉しいです。

所祭委員: 最後に、学生に伝えたいことはありますか。

宮地先生: コロナ禍でなかなか学校に来られなかったり、来る必要がなかったりして、大学で得ることや楽しいことが少ないと思うこともあるかもしれません。感染対策をきちんとした上で、時間があればキャンパスに来て、友人と議論したり先生に質問したりしてほしいです。そこから学問の第一歩が始まることがありますからね。

所祭委員: 家で授業を受けるのと学校で授業を受けるのではモチベーションが結構変わったりしますよね。

宮地先生: 夏休みが明けて久しぶりに対面で授業をしましたがとても楽しかったです。 最近は感染経路や対策などがより詳しくわかってきています。大学での交流を増やして、一緒にコロナを乗り越えて、学びを深め、就職や研究に頑張って取り組んで、みんなで新しい時代を創っていきましょう。