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柏研究室
(地域資源論)

#持続可能な地域創造と開発を考える

第1に、持続可能な地域創造のあり方を探求する。そこでは地域の自然、社会、文化、産業などの諸資源を結集することによる環境と調和した循環型で持続的な地域づくりのあり方を考える。第2は、持続可能な「食」「農」「農山村」の探求である。

研究内容

所祭委員: どのような研究を行なっているのですか。

柏先生: 柏ゼミでは持続可能な開発目標(SDGs)を念頭に、「持続可能な開発」をローカルなレベルで考えながら研究をしています。研究テーマは大きく2つあって、「持続可能な地域創造のあり方」と「持続可能な『食』と『農』、そして『農山村』のあり方」です。

Ⅰ「持続可能な地域創造のあり方」の研究

柏先生: 「持続可能な地域創造のあり方」の研究では、地域の自然、社会、文化、そして産業などの様々な資源を結集しながら、いかに環境と調和した、循環型で持続的な地域づくりをなしえるかを課題としています。ここでは地域間格差をはじめ、あらゆる格差を生み出す現代のグローバル資本主義とは何か、そこでの地域創造はどうあるべきかについて考えていきます。

また、柏ゼミでは4つの項目に分けた地域資源について、再発見・再評価もしていきます。地域資源の1つ目は「自然資源」です。森林や農地、景観などの他に、再生可能エネルギーを生みだす小河川、風、地熱、バイオマス資源、標高差なども含まれます。

2つ目は「社会的資源」でソーシャル・キャピタルです。個人・集団・組織間での相互信頼関係や、社会的ネットワークの構築がどのくらいあるのかを分析します。

3つ目は「文化・伝統的資源」です。地域固有の言語や祭典・祭祀・祭礼、伝統行事、伝統技術などが含まれます。固有の言語は、ヨーロッパでは特に非常に重要な資源とされているのですが、これを状況の異なる日本ではどう考えるのかということも課題の一つになっています。

4つ目が「産業資源」です。伝統工芸の他にも食料産業クラスターや、知識集約型産業のためのシーズなどが含まれます。

そしてこうした地域資源を結集して、いかに内発的発展につなげていくかを研究します。その場合、我々の研究室では「地域経営」という概念を重視しながら取り組んでいます。

これは地域創生のための地域経営システムと公民連携の模式図です。地域の持続性を保つためには、環境的な要素と社会的な要素、そして経済的な要素の3つを持続可能なものとして追求していく必要があります。加えて、それらの要素に働きかける地域経営体を政府や協治システムがどのように支えていくのか、という面も重要視しています。

Ⅱ 持続可能な「食」と「農」、そして「農山村」のあり方の研究

柏先生: 人類や地域の生存には、安全・安心な「食」と環境にフレンドリーで持続可能な「農」の再生が不可欠です。その「農」を育んでいる空間が「農山村」になります。これらは今、世界レベルで危機に直面しつつあります。その再生のあり方を考えるのが2つ目の大きな研究テーマです。この研究には3つのポイントがあります(広告文案調に示すと)。

  • 「21世紀、世界は飢えるのか?-世界食料危機の到来-」
  • 「農業と環境」
  • 「日本の『食』、『農』と『農山村』をどのように再生するか」

この3つです。

テーマ① 21世紀、世界は飢えるのか?

柏先生: これは世界の人口増加のグラフですが、20世紀の真ん中から大きな人口爆発が始まっていることが読み取れます。人口爆発を「食」と「農」の面からどのように支えていくのかが世界的な課題となっています。世界食料危機の大きな要因には、現在人口超大国である中国やインドなどの経済成長と、それに伴う食生活の高度化があります。この要因が将来どのように変化していくのかを考えなければなりません。

また、発展途上国の食料危機を解決するために長い間ずっと取り組まれてきた「緑の革命」という概念があります。「緑の革命」は多収量品種の開発・導入による収量増大により達成されました。しかし、超大量の資源・エネルギー投入が必要です。例えば、収穫量を1.7倍にするために、化学肥料などの施肥量は10倍以上必要になる。こういったことが持続可能な食料生産のあり方だと言えるのかどうかを再検討していかなければなりません。

そして同時に「現代農業」は非持続的である可能性を考える必要があります。我々は先進国に生まれたので豊かな食生活を享受していますが、それは大量の枯渇性資源・エネルギーによって成立している。他にも地下水の枯渇や農地の荒廃・砂漠化が進んでいます。このような状態の中で現代農業はいつまで持続しえるのかを考えていく必要があります。

所祭委員: 発展途上国にも先進国にもそれぞれに大きな問題がありそうです。

柏先生: あとは、日本の問題もあります。日本の食料自給率は先進国中最低の3割台。世界では「食」のグローバル化が進んでいますが、安全面の問題も懸念されています。ブッシュ元大統領(子)は「食料自給できない国を想像できるだろうか。それは国際圧力と危険にさらされている国である。」と述べました。このような面からも食料危機を考える必要があります。

テーマ② 農業と環境

柏先生: 農業と環境との関連で言うと、「農業は環境を破壊する」という考え方があります。例えば畑作や放牧では、化学肥料の過剰投与や過剰な飼養密度による硝酸態窒素等の蓄積などの影響で、土壌や地下水が汚染され人畜の健康被害や生態系への悪影響、景観悪化などの問題が生じています。環境へのマイナス問題です。

しかし、それ以上に重要な考えは「農業は環境に多大な恵みを与えるものでもある」ということ。ここを十分に考えるのが柏ゼミの特徴です。農業の役割は食料を生産するだけではありません。農業生産に伴って、「国民への無料のプレゼント」が提供されているのです。「国民への無料のプレゼント」とは専門用語で、農業の「多面的機能」と言います。具体的には文化的な側面としては、①良好な景観の形成機能、②文化の伝承機能、③保険休養機能などがあります。技術的・工学的な側面としては、④国土の保全機能、⑤河川流況安定機能、⑥水源かん養機能など実に多岐にわたる機能があります。

テーマ③ 日本の「食」「農」「農山村」をどのように再生するか

柏先生: まず、日本の「農」の再生が緊急である理由は2つあります。1つ目は、食料を輸入に大幅に依存することは危険だからです。先ほど言ったように、世界食料危機が到来する可能性があります。それからアメリカやオーストラリアなど、日本が輸入で頼っている国では枯渇性資源・エネルギーに依存し、土壌や水資源の持続性を軽視した「現代農業」が行われていますが、その脆弱性が浮彫りになってきつつあります。

2つ目は、「農」には多大で貴重な多面的機能が存在しているからです。国土保全、環境創造から文化にまで及ぶ、かけがえのない国の富を失ってはならない。一度失うと、その復元は事実上できません。ですから、多面的機能は「農」の存続によって守っていかなければなりません。

では、どのような仕組みで守っていくのかというと、多様な担い手によって「農」を再生していくのです。具体的には、①先端的な企業経営の創出、②定住と資源管理の担い手である兼業農家、③社会的企業による資源管理とローカル・ビジネスの創出などの諸点がポイントとなります。

学生の研究

所祭委員: 学生の皆さんは具体的にどのような研究をしているのですか。

学生A(学部4年生): 僕は有機農業に関わる研究をしています。現在は、有機農業への新規参入に対する課題点やその解決の方法を地域ごとに比較している最中です。有機農業とは簡単に言うと、農薬や化学肥料などを使用しない農業のこと。有機農業への新規参入は普通の農業とは異なる難しい部分が多くあります。その問題を解決するために様々な地域でどのようなアプローチがされているのかを文献を用いて調べています。

学生B(学部4年生): 僕は森林系の木質バイオマスをいかに持続可能に利用し、地域貢献させるかについて研究を進めています。ただ木質バイオマスそのものだけに焦点を当てて研究するのではなく、川上の森林資源や、木質バイオマスのサプライチェーンを含めて考えていきます。「川上から川下までの林業の流れとその中にある再生可能エネルギー」という形で、様々な側面から森林と再生可能エネルギーの双方にいい影響を与えられる研究だと思います。

学生C(学部4年生): 新しい農作物を作った際には自分だけがそれを作れる権利や、販売に関する権利など様々な権利が発生するのですが、僕はそれに関連して、農作物などの知的財産権についての研究を予定しています。例えば、シャインマスカットや巨峰などの具体的な銘柄を絞っていき、どのように知的財産の保護や品種開発に取り組んでいるのか調べています。コロナの影響でまだフィールドワークに行くことができていないのですが、今後行く予定です。

学生D(学部4年生): 私は、JAが農産物の価値を上げるためにどのような事業を行っているのか研究しています。ジャガイモを例に挙げると、ジャガイモ単体ではなくポテトチップスに加工すればより単価が上がります。他にも、農家が安定した収入を得るために畜産を始める際、JAがどのようにサポートしていくのかを研究したいです。

所祭委員: みなさんバラエティに富んだ研究をしているのですね。

柏先生: 「地域再生」や「食」、「農」、「農山村」に関連するのであれば幅広く研究テーマを選択することができます。他にも、再生可能エネルギーと地域創生やコミュニティ・ビジネス、有機農業、山間地の限界村落の再生、「食」の再検討、などの研究テーマを選択した学生もいます。

所祭委員: この分野で研究する中で、印象に残ったことなどはありますか。

学生A: 僕は小・中学校時代に有機農家の方と関わっていたのですが、周囲の普通の農家の方から「虫や病気が移されるから迷惑だ」と言われていました。しかし最近、文献調査をしていく中で有機農業に関心がある普通の農家の方が多くいることがわかったんです。もしかしたらアンケートの結果が偏っている可能性もありますが、地域での運動が身を結び始めていると感じました。この文献が本当にその通りなのか、コロナが落ち着いたら自分で実際に研究の中で確かめたいです。

学生B: 再生可能エネルギーは世界的なトレンドになり、現在様々な事業で注目されています。人と会話する際、再生可能エネルギーを勉強していることは非常に役に立っていると感じています。就職活動中も再生可能エネルギーに関する質問は多いですし、相手と深く話ができました。

学生C: 例えば、他の国の人がある国の野菜を勝手に持ち帰り、自国で栽培したなどの報道がありますが、それらは表面的な部分しか報道されていません。この分野で研究をしていると、「こういう側面があるな」、「これは絶対にやってはいけないことだな」とかが分かる。ニュースを見ていて、自分が学んできたことと結びつけられる点で研究してきてよかったと感じます。

学生D: スーパーに行くと、パッケージの裏を見て「こういう事例と関わっているな」などの裏の事情を知ることができます。何も知らずにスーパーに行くのではなく、ゼミで学んだ知識が身についた上で行くと面白いと感じました。

ゼミ活動

所祭委員: 普段のゼミは対面ですか。

柏先生: ゼミは基本的に対面で行なっています。ただ、対面が難しい時もあるので対面とオンラインを組み合わせた形も検討中です。それから、少人数でのフィールド調査も工夫して行なってきました。

所祭委員: 4年生からは自分の研究をメインに進めていくと思います。3年生はどのような活動をしているのですか。

柏先生: 3年生では、環境学や社会学、経済学などの基礎を学んでいきます。そして、内発的地域創生のための地域経営システムや、「食」「農」「農山村」に関する基礎を学びます。また、グローバルエデュケーションセンター(GEC)が開講している農山村体験実習への参加も推奨しています。今はコロナでなかなか難しいのですが、基本的には夏にフィールドワークも行なっています。

所祭委員: フィールドワークでは何をするのですか。

柏先生: 面白い取り組みをしている優良地域事例を選び出して、その地域がどのような工夫と努力をしながら地域再生に励んでいるのか、現地に赴いて聞き取ることをメインに行なっています。

栗栽培と食品加工による地域再生の現場での聞き取り調査(長野県)

所祭委員: 卒業研究のテーマはいつ頃に決まるのですか。

学生D: 3年生の冬休み前にどのような研究がしたいのかを自分たちで調べて、冬休み明けにざっくりとしたテーマを決めます。その後どんどん焦点を絞っていき、4年生の4月ごろにしっかりとテーマが定まります。冬休み前に先生が幅広い事例をピックアップして解説してくれるので、そこから興味のあるものを調べてテーマにする学生が多いです。

ゼミの特徴・雰囲気

所祭委員: 柏ゼミの特徴はありますか。

柏先生: 多様な招聘講師を招いて触発を図っています。それから「かやぶきの会」という早大・農工大・筑波大・東大・明大・宇都宮大などで構成される学生の合同研究会があるのですが、そこに柏ゼミも参画しています。早大は人科以外に他学部も参加しています。

卒業研究のテーマは、個人の問題意識を尊重して多様です。フィールド調査や統計分析などを基にした論文がこれまで作成されてきました。それから、ゼミのOBと就職相談の斡旋を行なってきました。最近は三菱商事や農林中央金庫に就職したOBとの相談などもやりました。学生はこうした企業以外にも三菱などの銀行や他のJAグループ、東芝などのメーカーなど、じつに様々な分野に就職しています。また県庁や中央省庁などの公務員も少なくありません。大学院に関しては早稲田の人科のみではなく京都大学大学院や、早稲田の商学研究科や国際コミュニケーション研究科など他の研究科にも進学しています。

所祭委員: 就職や進学に対してもとても手厚くサポートしていただけるのですね。では、ゼミの雰囲気はどのような感じですか。

学生A: とても自由です。
卒論のテーマは「食」や「農」、「農山村」に関連したものになるのですが、その中でも学生の興味・関心に沿ってバラエティに富んだ研究テーマを選択できます。加えて、調査の方法も自由です。僕は1人で黙々と調査をしているのですが、外部の先生(招聘講師)に直接コンタクトを取って毎週勉強会をしている学生も多いです。Bさん、Cさん、Dさんも外部の先生から指導を受けている学生です。このように様々なアプローチで研究が行われていますね。

所祭委員: 他学年との交流はありますか。

柏先生: 秋学期から4年生の卒業研究のディスカッションには3年生も参加してもらいます。それから合同研究会である「かやぶきの会」にも3年生と4年生が一緒に参加するので交流が深まりました。コロナの影響がなければ、合同合宿や合同フィールドワークを行なっています。

農家民泊体験でのひとコマ(京都府)

ゼミに興味がある学生に対して

所祭委員: 柏ゼミに入った理由を教えてください。

学生A: 元々農業に興味があったことが理由の一つです。加えて、2年生の頃に柏先生の「地域資源論」の授業を受講したのですが、論述のテストでA3の用紙を表裏全て埋められたんです(笑)。その時に、柏先生の授業が一番自分の興味関心にあっていると感じてゼミに入りました。

学生B: 柏先生の授業を受けて面白いと感じたのでゼミに入りました。ただ農業だけを勉強するのはつまらないので、再生可能エネルギーと組み合わせて勉強しているうちに、段々再生可能エネルギーの方が勉強したくなってきて(笑)。気づいたら林業の方向に興味が移って今の研究に繋がっています。

学生C: 自分は元々自然環境を勉強したいと考えていました。1年生で「人間科学とは何か」を考える授業があったのですが、自然を「食」を通じて考えることができると知り興味を持ちました。そこで柏ゼミがピッタリだと思い入りました。僕も最初は自然環境について勉強したいと考えていましたが、調べていく中で「食」や農家さんが抱えている問題に興味を持つようになりました。

学生D: 私は地域活性化についての勉強がしたくて柏ゼミを見つけました。ゼミに入って勉強するうちに農業についても面白いと感じるようになり、農村系によった研究を考えています。
加えて、私は留学していたので同学年よりも半年遅れでゼミに参加する予定でした。でも、4年で卒業をしたくて先生に相談したら快く受けてくださりました。留学に行く予定のある学生にも所属しやすいゼミだと思います。

地域再生の現場での聞き取り(京都府)

所祭委員: ゼミのアピールポイントや1・2年生へのメッセージをお願いします。

学生A: 柏ゼミは環境系のゼミに区分されています。環境系のゼミは理系色が強いところが多いのですが、柏ゼミは文系の学生が多いです。理系の科目に親しみがない人でもしっかりと研究できます。1年生や2年生はいろんな授業を取って視野を広げてみてください。そして何か思いついたことがあったらなんでもメモしておいて、それに関連する研究を調べると良いと思います。

学生B: 将来地方貢献や地域産業などに興味があり、それを仕事に繋げたいと考えている学生にとってはとてもいいゼミです。僕含めてAさんとCさんも農業に関わる職種に就職予定です。就活をしていて勉強していることが活かせます。
研究は自分の将来に影響を与えます。なので、自分の興味関心に沿ったゼミを探すことが大切です。

学生C: 自然環境に興味がある学生にとてもおすすめです。あと、僕は農業には関係ない職種に就職しますが、関係ないとはいっても農や環境というのは巡り巡って必ず何かしら関係してきます。ものの見方を広げるという意味で一回勉強してみるのも良いのではないかと思います。コロナが落ち着いた時に、自分がやりたいことができるよう今から視野を広げておくことをお勧めします。

学生D: 様々な研究が行われていることもあって、他のゼミ生と話していると違う分野の知識も身に付きます。ゼミのメンバーが良い人ばかりなのでコロナ禍でも気軽にコミュニケーションが取れます。ゼミに入ると4年生ではずっとその研究をしなければならないので、興味のないゼミをノリで選択すると厳しくなってしまいます。先生の授業を聞いて面白いと感じた先生のゼミを選ぶと良いと思います。

柏先生: 学生の方はゼミ選びも大変ですがエンジョイしてください(笑)。今回お話ししたような内容に関心が旺盛な学生は、是非柏ゼミの門をたたいてみてください!