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福島研究室
(芸術・表象文化論)

#アートに人間科学的にアプローチする

映画、文学、美術、漫画、演劇、写真、歌、詩、さらには、文化資源(未だアートとしては認知されていない制作物・営為)を人間科学的に研究します。

芸術・表象文化論とは?

所祭委員:芸術・表象文化論という学問は多くの学生にとって身近なものではないように感じます。どのような学問なのか教えていただいてもよろしいですか?

福島先生: まず、芸術や表象文化というものは国や地域に関わらずどこにでもあって、人間について考える上で欠かせないものだと思います。他の研究室ではあまり取り上げられていないのですが、人間科学部というからには外せない学問のジャンルかなと思っています。 研究対象としては、具体的には映画や文学、美術、彫刻、現代アート、漫画や写真、インスタレーション、モニュメント(何かを記念して建てられた銅像)など、様々な芸術を扱っています。演劇、ダンス、舞踊、音楽(音楽理論ではなくジャンルや歴史、リリック等)もですね。あとは、芸術というといわゆる完成された「作品」が想起されやすいけれど、作品とまだ呼ばれていないものの中にも実はすごく重要な要素が詰まっているものが結構あったりするんです。そういった「文化資源」も研究対象にしています。 これらの研究対象はもともと文学部などで人文科学的に扱われていたものなのだけど、我々の研究室ではそれらに対して人間科学的にアプローチすることをメインにしています。

所祭委員: 人間科学的にアプローチするとはどういうことでしょうか?

福島先生: 文学部だと、ある作品の構造や形、あるいは作家の研究などがメインになると思います。ですが、我々の研究室ではそういった人文科学的な知識を踏まえた上で、ではそもそもなぜ芸術や表象文化というものがこの世界に存在しているのか、人間はなぜそれらを作り出し、必要としているのか、といったような、人間にとっての「芸術」の存在意義や機能に着目して研究しています。そして、これこそが人間科学的なアプローチであると考えています。

所祭委員: 確かにそういった視点もありますよね。

福島先生: 芸術の起源と言われているフランスにあるラスコーの壁画は2万年も前のものなんですね。芸術活動がそれほど昔から継続して行われているということは、きっと人間にとって必要なものだからだと思うので、その理由を考えてみたいという気持ちが大きいですよね。 コロナ禍で生活に様々な制限がかかって、「不要不急」という言葉がよく使われるようになりました。不要不急だからコンサートもしない、演劇もしない、映画館も閉める、という風になった時に人々があまりうまく反論できなかった。「自分たちの趣味を邪魔するな」とか「大好きなものに近づけないのは辛い」とか感情的な言葉は出たけど、もう少し理論的に、どうしてそれが人間にとって大事なものなのかを説明できなかったなと周りを見ていて痛感しました。だから改めてそれをきちんと言葉にしようとすることの意義を感じましたね。そう考えると、我々の研究室のアプローチは現代的な問題意識を持っているのではないかと思います。

所祭委員: 芸術について考えることが身近に感じられてきたような気がします。

福島先生: 「衣・食・住」が整った環境で命が守られているというだけでは、おそらく人間が人間らしくはなれなくて、足りない部分がたくさん出てきてしまう気がします。芸術や表象文化はきっと人間を成り立たせる要素として関わっているんです。だからこそ、この人間科学部で芸術や表象文化の存在理由や存在意義、人類に対して果たしている機能を研究したいと思っています。

ゼミでの研究内容

所祭委員: 実際にゼミの活動の中での研究について具体的な例を教えていただけますか?

福島先生: 昨年卒論を書いた学生で「よさこい」について研究した学生がいました。 その学生も最初は、どんなアイテムを持って、どの音楽を使って、というような目の前にあるものしか見えていなかったのだけど、調べていく中でよさこいを通じた様々な繋がりが見えてきたんです。一つは歴史的なことで、よさこいは第二次世界大戦後、戦災と震災(1946年の南海大地震)からの復興のような形で始まって、その後は地域の町おこしという役割を担ってきていることがわかりました。そして、そこに参加することで様々な人が出会い、人間関係ができていくという構造も見えてきました。こういった、ある活動に人と人を繋ぐ機能があることを、現代アートの世界では「リレーショナル」と呼びます。よさこいをする一つのグループ内でもそうだし、グループとグループの間、さらには人と人が繋がり合う機会を提供しているという点においては、よさこいが踊られる場所も関連してきますよね。まずはルーツがあって、そこから現代に至るまで人を繋ぐという機能を果たしてきた。単に踊りというだけではなく、よさこいにはよさこいが果たしている人間的な役割やその土地の記憶をやっぱり担っているんですよね。

所祭委員: 一つ一つの芸術に全く異なる歴史や人の繋がりがあると思うと、とても興味深いです。

福島先生: 我々の研究室では、「記憶」と「リレーショナル」というのが大きな柱になっている。芸術や表象文化の機能として「記憶を伝える」ことと「人と人を繋ぐ」ということは、それらの存在意義まで掘り下げて考える時には必ず出てくることではないかな。人間に対してどのような機能を果たしているのか、という部分に焦点を当てているというのが、文学部ではなく人間科学部で扱う芸術・表象文化論ならではなのかなと思いますね。

所祭委員: 例えば今の「よさこい」は踊りの一つですが、美術や音楽、文学など、どの分野に興味を持って研究するかというのは完全に個別なのですか?

福島先生: 自分で自分の研究対象を選んでもらうので、こっちからこれをやりなさいとか、大きな研究を割り振るようなことはないです。芸術や表象文化について研究するとなると、比較的個人作業になることが多いですね。それぞれが自分の好きなものを持ってゼミに入ってきて、ゼミでの活動をやっていくうちに卒業研究のテーマを見つけてもらいます。

「調査の合間のひととき(瀬戸内国際芸術祭・直島)」

福島先生: 研究の流れで言うと、まずは基本的な、人文学がやっているようなところの先行研究を抑えて、その上でそれが人間にとってどのような意味や機能があるのかを突き詰めていくといった感じです。だけど、研究を始めた段階、その人がそれを選んだ時点でそこにはやはり何かしらの意味がある。それを個々人に見つけ出してもらうという作業になっているのかなと思います。

ゼミの特徴や雰囲気

所祭委員: ゼミの特徴や雰囲気なども教えていただきたいです。

福島先生: 我々の研究室はディスカッションが一番の特徴かなと思います。 学生一人一人が選んだ作品をみんなが鑑賞してきて、作品を選んだ人が自分の考えを発表して、その意見を踏まえた上でみんなが自分の考えを言って、意見を交わす。決して相手を論破するというのが目的ではなくて、いろんな視点をそこで出してもらうことで作品の見方を多角的にするということをします。ディスカッション自体は他のゼミでもするだろうけど、「作品をどう観たか」というのが我々の研究室におけるディスカッションの基本になるので、少し特殊なんじゃないかな。それぞれが色んなバックグラウンドを持ってここまで生きてきているので、やっぱり意見が全く同じということは無くて、みんな全然違ったことを言うのですごく面白いです。学生の自主性と個性を尊重することと、人の話を聞いて議論するっていうのが我々の研究室の特徴かなと思いますね。 雰囲気は毎年それぞれ違うメンバーが集まるので、そのメンバーによってほんわかしたセミになったり、それぞれが独立して意見を戦わせるゼミになったり色々です。

「リヨン大学(フランス)での交流会」

所祭委員:個人が自分の好きなものを持ち寄って意見交換するというのは面白そうです。

福島先生: でもね、結構緊張すると思うよ(笑)。それぞれが選んでくるものはそれなりに各自興味があって好きなものだから、それを面白くないとか言われると心にくるんじゃないかな。でも最初面白くないと言った人も、議論していく中で、あ、でもやっぱりちょっと面白いかもって意見が変わることももちろんあります。想像以上に真剣な場になりますね。 あとは功利的な話にはなるけど議論を踏まえた上で最後にその作品に対する感想をそれぞれが書いてくることで1セッションが終わるので、文章をまとめる力みたいなものもつくと思います。書いた感想は私だけではなくゼミ生みんなで読みます。

これからゼミに入る1、2年生に向けて

所祭委員:1、2年生はこれからゼミを選びますが、先生はどういう人がこの芸術・表象文化論ゼミに向いていると思いますか?

福島先生: やっぱり何か「自分はこれが好きだ」って言う対象を持っている人がいいかなと思いますね。その上で、実際自分でそれをやっていたりとか、その対象がとても好きで、それについて語りたかったりする人に我々の研究室は向いていると思うし、ぜひ入って欲しいなと思います。さっきの、卒論でよさこいの研究をした人は早稲田のよさこいのサークルに入っていたし、演劇について研究する人は演劇サークルの人が何人かいたり、他にも絵を描いていたり小説を書いていたりとか、自分で作品創りをしている人も多いです。

所祭委員: 最後に何か言い残したこと、伝えたいことなどはありますか?

福島先生: うちの研究室はさっきも言ったように自主性と個性をとても大切にしています。そして、好きなものを持っている人を育てたいなと思っています。実生活においては好きなものは好きでいいんです。それを大学の研究室という場であえて、自分はなぜそれが好きなのかを言葉で表現し、そこから芸術というものがなぜ人間にとって必要で大事なのかっていうことを考える、そういう風なことをして欲しいなと思っています。 将来的には、作品を創ることはもちろん、出版社や美術館や博物館で働いたり、進学して専門研究をしたり、作品の批評をしたりといったように、何らかの形で芸術・表象文化の担い手になってくれたらいいなと考えながら研究室を運営しています。この研究室を出た人には、芸術や表象文化がいかに人間にとって必要なものであるかということを説明できる人になって欲しいし、ここで学んだことを社会に出ても活かし続けて欲しいなと思います。

「調査の合間のひととき(瀬戸内国際芸術祭・直島)」